DIARY - 2004.05

05/30 - MSN Messengerの暗号化 (3)

イヴはiBookを起動しました。窓のそとに眼をやると、ちょうど、ボブが学校から帰ってくるところでした。ボブは母親の作ったマドレーヌをぱくつきながら、自分の部屋に入り、パソコンを起ち上げます。MSN Messengerを実行し、ユーザ名とパスワードを入力してログインしました。

(ボブは、Digest認証という方式でログインします。この方式を使っている場合、パスワードはうまい具合に暗号化されて送信されます。そのため、イヴはボブのパスワードを盗み見ることはできません)

ボブがログインすると、IM Serverからボブのパソコンに、 現在、ログインしている友達のリストが送られてきます。たとえば、「アリス、キャロル、デイブがログイン中」というデータです。このデータは暗号化されずに送られてくるので、イヴにも見ることができます。これで、イヴには誰がボブの友達なのか判ってしまいました(そして、自分が友達リストに入ってないことも)。

さて、ボブは「明日、デートしない?」とアリスに話しかけました。アリスは「おとといおいでなさい」と応えました。このとき、どんなふうにデータがやりとりされるんでしょう?

  1. ボブのパソコンからIM Serverに、「明日、デートしない?」というアリス宛のメッセージが送信されます。
  2. IM Serverからアリスのパソコンに、「明日、デートしない?」というボブからのメッセージが送信されます。
  3. アリスのパソコンからIM Serverに、「おとといおいでなさい」というボブ宛のメッセージが送信されます。
  4. IM Serverからボブのパソコンに、「おとといおいでなさい」というアリスからのメッセージが送信されます。
  5. ボブは落胆します(データの流れとは関係ありませんが)。

やりとりされたデータ(つまり、一連のメッセージ)は暗号化されていません。ここで、ひとつの定理を確認しましょう。すなわち、「暗号化されていないデータは盗聴される(かもしれない)」。

もっとも、ボブにとっては「(かもしれない)」ではなく、実際に盗聴されているわけですが。盗聴しているイヴのiBookの画面には、ボブとアリスの会話がすべて、そのままのかたちで表示されています。この会話を見て、イヴがなにを考えたかはここでは述べないことにしましょう。

ボブはどうすればイヴに会話を盗聴されないようにできるのでしょうか? 次回はこれを解決するための「暗号化」について説明します。

05/23 - MSN Messengerの暗号化 (2)

イヴは、おさななじみのボブのことを憎からず思っていました。それが彼女をして、ストーカーじみた行為をさせたのです。彼女の行為はほめられた行為ではありませんが(どちらかというと違法行為です)、彼女の恋心に気がつかない朴念仁のボブも悪いのかもしれません。しかし、少女マンガ的審判を行うことはこの文章の目的ではないので、ボブの罪はさておいて話を進めることにします。

話の焦点を「イヴは、どのようにしてなにを盗聴することができたのか?」という一点にしぼりましょう。まず、大前提があります。インターネットを通じてやりとりされるデータを盗み見ることは、技術的にはとても簡単だという前提です。

イヴの家とボブの家は隣同士で、同じプロバイダを通じてインターネットにアクセスしていました。怠慢なプロバイダは、地区ごとにサブネットを割り当てました。彼女がやらなければならなかったことは、自分のiBookのネットワークカードをプロミスキャス・モードで動かすことだけでした。そうするだけで、ボブの家からインターネットに出て行く、そして入ってくるすべてのデータを、彼女は盗み見ることができるようになりました。

さて、その日、彼女はいつものようにiBookを起動しました。そして、ボブがアリスを誘うのを盗み聴いてハンカチを噛むことになります。次回は、彼女がどんなデータを盗み見たのかを、順を追って説明していきましょう。

05/21 - MSN Messengerの暗号化 (1)

私はMSN Messengerを代表とするIM (Instant Messenger) の文化に詳しくありません。つけやきばの理解しかしていませんが、小咄を肴に、すこし説明してみることにします。

  1. IM Serverというものがあります。
  2. アリスがIM Serverにログインします。
  3. ボブがIM Serverにログインします。
  4. ボブはアリスがログインしているのを発見します。
  5. ボブは「明日、デートしない?」とアリスに話しかけます。
  6. アリスは「おとといおいでなさい」とボブに応えます。

かわいそうなボブ。けれども、まだまだボブの悲劇は終わっていませんでした。次の日、ボブが学校に行くと皆がひそひそと噂話に興じています。「ねえねえねえ、ボブがアリスを誘って、ふられたらしいよ」、内気なボブはいたたまれなくなってしまいました。ああ、なんてかわいそうなボブ!

さて、ボブがふられたことをばらしたのは誰でしょう。アリスでしょうか。確かに彼女の可能性は高そうです。しかし、彼女の名誉のために言っておけば、彼女は高慢ではありますが、根はやさしい女のコです。犯人は彼女ではありません。

じゃあ、いったい誰が? 実はボブのおさななじみのイヴが盗聴していたのです! 衝撃の事実を明らかにしつつ、次回に続きます。

05/15 - Winny作者逮捕に関する個人的見解

この文章で述べることは個人的見解であり、私が所属する組織とは関係がないことをご了解ください。

私はWinny作者(金子勇氏)の逮捕が不当なのではないか、と考えています。しかし、著作権法で保護されるべき著作物等を、著作者の権利や隣接する権利を無視して流通させる行為について賛成するものではありません。現行のシステムに問題はあるかもしれませんが、法がある以上、法を尊重するべきだと考えます。

今回、なにを根拠として逮捕が行われたのか、なにを根拠に起訴されるのか、私は注視していきたいと考えています。もしも、プログラムを書く自由、表現の自由を奪うシステムが、この国に作られていくとしたら、それは明るい未来ではありえません。そのような未来をもたらさないために、まずは、金子勇氏の支援活動に参加することにします。